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キャリアトピックス

戦略的キャリアマネジメント
 (後編)

 

株式会社キャリアライゼーション 
代表取締役   中浦 洋平
 

キャリアマネジメントという考え方は、社員側と企業側の双方にメリットがあるということは当トピックスの前編でもご理解頂けたと思いますが、キャリアデザイン研修を実施している企業はまだまだ少数派です。
あらためて、キャリアデザイン研修の進め方について、下記の6つのステップに分けてご紹介します。


①キャリアの棚卸をする

まずは、これまでのキャリアの棚卸をすることからスタートします。
棚卸とは、自分の過去を振り返り、現在を見つめる事です。
まずは、自分がどのような業務を行い、どのような経験・スキルを身に付けてきたかをしっかりと振り返る事で、自分が今現時点で持っているスキルを明文化しましょう。 

((私の場合・・・))
・百貨店での売場マネジメントや人材サービスでの営業経験を通じて、顧客折衝力や課題抽出力を身に付けた。
・15年以上のマネジメント経験を通じて、組織運営スキルや課題解決力を高めることができた。
・長年、営業実績を追い続け、数多くの達成/未達成を経験してきた事で、ビジネス感度を磨きながらも、ビジネスの厳しさを最前線で経験してきた。

など、細かく挙げればきりがないほどの経験・スキルを身に付けてきました。

 
②自己分析をする
キャリアの棚卸を通じて、これまでの自分の経験やスキルを明らかにした後は、自己分析に取り組みます。
自己分析とは、自分の強みや弱み以外に、仕事に対する価値観やスタンスなど深層心理についても明らかにするために行います。
しかし、仕事への価値観が「プライベートが最優先なので、あくまで給料を稼ぐためのもの」など、上司に言いづらい場合もあります。そのような場合でも決してごまかさないように、事前に研修の目的を明確にしておく必要があります。
あくまでもキャリアデザイン研修は、社員のための研修であり、どのような価値観やスタンスであっても問題ないと、念押ししておきましょう。ごまかされてしまうと企業としても間違ったアドバイスをすることになり、社員も本来の価値観やスタンスとかけ離れたアドバイスを聞くことになってしまうため、誰のためにもならず、研修効果が薄れてしまいます。

((私の場合・・・))
・小学校~高校までの10年間サッカー部で活動してきましたが、高校3年の夏の大会が終了したタイミングで部活動引退し受験に備えるのが一般的な流れです。ただし、私はその後に野球部の応援団に入り、夏の甲子園出場を目指す野球部の応援を行いました。

大学受験を考えるのであれば、一日でも早く受験勉強に本腰を入れた方が良い訳ですが、当時の私の価値観としては、「自身の最後の大会が不完全燃焼であった分、自分の中で高校の部活動をやりきったという納得感がない限り、その後の受験勉強にも本当の意味で真剣に取り組めない」→「単なる受験生になりたくない」→「他の人と違った形で大学受験にチャレンジし、より難易度高い大学に合格した方がかっこよい」、という価値観や姿勢があったものだと理解しています。この点からも、「自分の中での納得感や達成感を大切にする」・「その時にしか経験できないことを最大限に経験したい」という価値観が見えてきますし、これは今にも通じていると思います。


③将来のキャリアを想定する
自己分析のあとは、将来のキャリアを想定していきましょう。
これまでのステップで明らかになった業務経験やスキルを前提にして、今後はどのような経験やスキルが欲しいのか、必要となるのかを考えることが重要です。
この際に、絶対に過去や現在の業務経験やスキルを前提にする必要はありません。これまで人事をしてきたが、実はマーケティング関連の仕事をしたいという人もいるでしょう。そのような場合でも、ごまかさず本当になりたい自分というのを考えてみてください。

((私の場合・・・))
・1社目の百貨店から転職する際に、「将来は起業したい」というボヤっとした想いはありました。

だからこそ、起業に近づきそうなイメージが持てた、当時のインテリジェンスに転職しています。が、もう少し遡って考えると、大学受験時の進学先を決める際に、同じ高校の受験生の9割以上が関西圏の学校を志望する中で、私は東京の大学しか志望しませんでした。この際に感じていたことも、「大多数の人と同じでいいのか?」→「仮にその選択肢を自分が選ばなかった場合、その選択肢を選んだ人と接した時に、羨ましく感じ過去の自分の決定を後悔しないのか?」→「後悔する可能性が高いならば、大変かもしれないけどまずはチャレンジしてみよう」、という価値観が学生時代からあったことに気付きました。

その後、自分が起業という道を描き始めたことも、実際に起業したことも、結局はこの価値観や姿勢があり、その頃から思い描いていたことだったと言えます。

 
④キャリアパスをデザインする
思い描いた将来のキャリアをもとに、その理想に至るまでの工程を設計していきます。設計した工程は上司と後で擦り合わせるため、できるだけ具体的に記載する方が好ましいです。
例えば、●●部長になりたいという目標がある場合、何歳までになりたいのか。そこから逆算すると何歳までに課長になる必要があり、その場合はどのようなスキルを持っていなければならないのかが見えてくるはずです。
それらを細かく記載しておくことで、「実際はこのようなスキルも必要だよ」や「何歳までに課長になるためには、このスキルはいつまでに身に付けよう」など、具体的なアドバイスを得ることができます。

((私の場合・・・))
・いずれは起業したいと思っていたので、とにかく「“会社の看板”ではなく、“自分の看板”で商売ができるようになりたい、そういう経験やスキルが身につく環境で誰よりも努力する」という観点をはじめ、「起業に繋がる“ネットワーク”と“資金”を築ける」という観点を大切に、転職時の会社選びの軸としてきました。

また、企業内の職務遂行の観点では、

・関西支社の立ち上げプロジェクトに手を上げ参画し、プロジェクト推進の経験とゼロベースでの事業立ち上げの経験を積む。

・新マーケット拡大のための新チーム立ち上げに取り組むことで、マーケット分析や組織拡大の経験を積む。

・複数チームのマネジメントを買って出ることで、マネジメントの幅を広げ、人間としての引き出しを持つ。

・全社横断の改革プロジェクトに参加し、これまで触れ合ったことのない他拠点の同僚や、斜め上の上司などと交流機会も持つことで、自分の苦手とするタイプとも付き合う場数と、能力・経験の高い方々から知識・スキルを吸収する機会を多く作る。

など、通常業務(自分の評価に直結する営業としての行動)以外の領域で、自分の将来に繋がる経験やスキルの習得に意図的に取り組んできました。本来の自分自身の人事評価だけを考えれば取るべき選択肢ではないと考える人もいるかもしれませんが、短期視点ではなく、あくまで中長期視点に立った意思決定と言えます。


⑤キャリアデザインについて上司と話し合う
上記のように作成したキャリアデザインをもとに、上司と話し合う事で、自分の作成したキャリアデザインが現実的なのかどうかが分かります。また、不足している点や自分では気付いていない保有スキルもあるかもしれません。
一方で、上司側では、部下から提出されたキャリアデザインをもとに、より具体的な目標に落とし込むサポートをしてください。
例えば、「マネジメントに関する書籍を毎月1冊ずつ読む」、「後輩をサポートして●ヵ月連続で営業目標を達成させる」といったように、何をすれば欲しいスキルを習得できるのかをイメージできる状態にします。
提出されたキャリアデザインが、実際の業務と関連がなかったり、自社内では得ることができない場合には、まずは自社内で得られるスキルで未習得のスキルを中心に考えてみてください。
長期的な視点に立って、自社内でも得ることができるスキルの習得を先に取り組んでみるなど、習得の順序を組み替えた上で、企業側としてはその機会提供をするというスタンスで提案してみるのも良いかと思います。

((私の場合・・・))
スキルアップやキャリア形成のための機会をできる限り持ちたいと、常々上司と話を続けていくことで、

・海外拠点での短期研修に参加し、グローバル視点と外国人とのビジネス経験を積む。

・グロービス経営大学院の単科コースを受講し、ビジネススキルを高める。

・英語学習支援制度に申し込み、継続的に英語学習に取り組むことで、英語力をアップさせる。

・自分のマネジメント手法や実績を全社規模で発表する社内のベストプラクティスコンクールにエントリーし、全社表彰を勝ち取ることで、自分への周囲の期待値をさらに高める。

などの機会を得てきました。何も言わずに黙っていても得られないような経験を、当時の上司からは積ませて頂いたことを、本当に感謝しています。さらには機会を得たり、周囲の期待値を高める事で、自分へのプレッシャー(後押し)を感じながら日々仕事に取り組める環境を作っていました。怠け癖のある自分の性格を見越して打ち手を講じた、とも言えます。


⑥定期的に振り返りの機会を設ける
研修後、作成した目標を達成できているか否か、そもそも描いたキャリアデザインに変更があるか否かなど、定期的に振り返りの機会を設けるようにしましょう。
未達成の場合は、どうしても達成できなかったのかを一緒に考えて、達成するためにはどのようなサポートが必要かを考える機会にしてください。


((私の場合・・・))
・自分のキャリアに関する「5ヵ年計画」と題し、担当部署内でその存在をメンバーに共有し、興味をもつメンバーには具体的に開示する。

などの取り組みを実施しながら、振り返り機会を最低でも半年に一回は作ってきました。上司からのフィードバックだけでなく、同僚や部下といった全方位(360度)で意見やアドバイスをもらえる機会を作ってきたことが重要で、内省だけに頼らず、様々な意見を収集することが、今の自分のキャリア形成に役に立っていると強く感じています。


 


上図は、フロー理論の説明パート(参照:キャリア開発における「挑戦」と「スキル」の関係性)でも用いた資料です。
       https://www.career-sodan.com/careerTOPIX/Csikszentmihalyi.html

研修後、実践の中で保有スキルや経験の幅を広げていきますが、その際に重要な点は、より多くの成功体験と失敗体験を積むことです。
よく、失敗体験は積むべきではないという意見もありますが、失敗体験からの学びのほうが、むしろ成功体験での学びよりも有効だったりもします。

これは、単に失敗をしなさいと言いたい訳ではなく、仮に失敗したとしても、何が原因だったかを自分で振り返り、上司と共有し、次のチャレンジに活かせるのであれば、非常に有効な経験に変わります。まさに、ビジネスの血と肉になるということです。
最近では、失敗や逆境からいかに這い上がるかというレジリエンスの強さにも注目が高くなってもいます。
単に成功体験ばかり保有しているビジネスパーソンよりも、多くの成功体験に加え多少の失敗経験も持ち合わせている、その上で逆境から這い上がってきた強さを持ち合わせているビジネスパーソンのほうが、評価が高い傾向にもあります。
(例えば、起業したけど失敗し、組織に就職し直す方がいますが、企業側はむしろ好んでこういう起業経験者を採用したがる点は、上記の観点の一つでもあります)

・せっかく設計したキャリアデザインなので、強い意志と行動力をもって実現に向けたチャレンジを繰り返す事。
・そして上司は部下のそのチャレンジを後押しし、機会を与え、ともにキャリアデザインの実現を目指す事。
・上司自身も部下や同僚などに自身のキャリアデザインなどを共有し、お互いのキャリアについて真剣に話し合える関係性を作っていく事。

こういう職場は、本当に一体感があり、強さを感じる組織だと思いますし、これからの時代には必要だと思います。

戦略的キャリアマネジメントは、一人で実現できる部分と、上司はじめ部下のサポートなど組織全体のフォローがあって実現できる部分があります。
できることなら、チーム単位/部署単位など、所属組織ごとに全メンバーのキャリアデザインを共有し合って、全体で達成を目指すなどの取り組みも行ってみてください。



以上、記載してきた内容はあくまで一般的な内容になります。
個別組織事情に応じて、カスタマイズした内容でキャリアデザイン研修を行っている企業がほとんどです。
ご質問・ご相談のある方は、個別でご連絡頂ければ各社の事例などを交えながらサポートさせて頂きます。

一人でも多くの方々が、イキイキと自分らしいキャリアを実現できる事を願っております。

<<前編はこちら>>
https://www.career-sodan.com/careerTOPIX/careermanagement1.html

【プロフィール】

田中聡の顔写真
 

中浦 洋平

株式会社キャリアライゼーション
代表取締役

2002年に新卒で高島屋へ入社。インテリジェンス(現パーソルキャリア)に転職し、ファッション業界向け人材紹介のマネジメントまで経験。リンクアンドモチベーションでの人事/組織コンサルティングを経て、ジェイエイシーリクルートメントへ。外資系企業やハイキャリア層向けの人材紹介にて、人材・教育・消費財・ファッション・小売/流通/外食・EC/デジタルなど、BtoCサービスでの複数業界に向けた事業統括責任者を歴任。新チーム立ち上げや新規領域の拡大、さらには自社社員の採用~育成・教育まで、人と組織に関する一連の業務を経験。 新サービス創出のため2019年に株式会社キャリアライゼーションを創業、現在に至る。
www.careerization.co.jp