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キャリアトピックス

ライフシフト時代の
キャリアデザインについて

インタビュー記事

 

株式会社ポジティブ・キャリア 
代表取締役   多胡 敦史 氏
多胡敦史の顔写真
 

■リンダグラットンの著書『ライフシフト』に代表されるように、人生100年時代と言われていますが、今後のキャリアについて我々はどう考えていくべきでしょうか? 最近、企業側からキャリアデザイン研修の依頼が急増しています。特に、大手・中堅企業については、自社の研修体系の中に標準化してきている状況です。
背景としては、ご指摘の『ライフシフト』が提唱する人生100年時代へのキャリアの考え方の変化があり、日本国内での象徴的な話としては、トヨタの豊田章男社長の『定年まで会社は面倒見切れない』といった発言が非常に大きかったと感じています。
大手企業でさえも、社員のキャリアを定年まで補償はできないという観点から、与えられた仕事だけでなく個人が強くなり、自律的に歩んでほしいというメッセージです。だからこそ、副業・兼業も解禁の方向に舵を切り、いまや転職を宜しくないという風潮はほぼゼロと言えます。ここには、こうした企業側の想い(現状)があると考えられます。
キャリアデザイン研修については、少々乱暴な言い方かもしれませんが、『会社のことだけ考えていれば、定年まで安泰だと考えている社員は不要。自律していない人間は評価できない。能力がないなら出て行って下さい』というメッセージ性もあるし、『社員一人ひとりがキャリア自律し強くなり、VUCA時代を勝ち抜くメンバーとして、会社を積極的に支えてほしい』という2つの意味合いがあると思います。
 
■採用上における差別化戦略としても、キャリアデザイン研修の意味合いはありますか?
確かに、採用に有効な福利厚生面での魅力付けも一理あると思いますが、一番多いニーズとしては、やはり社員一人ひとりのキャリア自律を求めるためのキャリアデザイン研修導入です。
内容の一部をお話しすると、『今後のキャリアプランを書いてもらうこと』が目的ではなく、『自分を知ること』が目的です。自分の強み/弱みを客観的に知る。今後のキャリアにおいてどうやって勝っていくべきか、自身のキャリアの軸や大切なものをどこに置くか、などです。ビジネスパーソンとしての質を上げてほしいという企業側のニーズが圧倒的に多くなっています。
 
■実際に、キャリアデザイン研修を受講した方の印象はどうですか?
大手企業の社員ほど、この研修効果は大きいと思います。『この会社に入ったら、親戚一同も喜んでくれる時代』からは様変わりし、『大手企業でも倒産したり、外資に買収されたりする時代』になっています。いわゆる高学歴で一途に働いてきたとしても安泰などどこにもなく、先が見えなくなってきて、漠然とした不安を感じている人が圧倒的に増えている状態です。なので大手企業ほど、こういう研修に多くの手が上がる傾向もあります。みんな不安を抱えている証拠だと思います。
逆に中小企業のほうが、最初から安泰など考えておらず、ある種の雑草魂をもって自律的に生き抜いている方が多いのかも知れません。
いずれにせよ、キャリアデザイン研修の重要性がますます増えてきた時代と言えます。
 
■そういう観点では、キャリアアドバイザーの存在は大きいと思われますか?
はい、まさにです。最終的には、個人個人にも専属のキャリアアドバイザーが付いていく時代がいずれ来るとは思います。欧米では割と普通な国が多くあります。ただし、日本ですぐにそうなるかと言うと、一足飛びにはいかないので、まずはキャリアデザイン研修として企業単位で導入していくことが求められているのでしょう。
 
■参加者の対象はどうなっていますか?
年齢や階層別で区切っている場合もあれば、手上げ制とか、カフェテリアプランとして利用して頂くなど、様々です。ただ、ひとつ言えるのは、受講者年齢がどんどん下がってきています。今までは、いわゆる役職定年前の50歳前や55歳前後に対して、役定後や定年後を見据えて実施していましたが、そのタイミング直前で実施しては遅いということで、30代や40代から早めに開始する企業が増えています。
 
■そうなると、企業側にとっては、能力開発の意味合いの強いビジネス研修と、前述のキャリアデザイン研修の割合は、年齢や階層によってどう考えるべきでしょうか?
能力開発としてのビジネス要素を多く含む研修を実施しつつ、キャリア自立を促すキャリアデザイン研修を並行して行う。まさにハイブリットに実施していくことが一番望ましいし、そういう企業が増えています。常に学びながら、常にキャリアを考えさせている、そういう状態です。それぞれを別物で考えるべきではなく、新入社員時代から常にキャリアデザイン研修を実施していくべきです。
 
■研修受講後は、参加者はどのように行動すべきでしょうか?
研修で得た気づきを、職場や家庭に戻って、どんどん活かしていきましょう。研修の中では、これまでの過去を振り返りながら、未来を見据えた方向性や生き方を考え、そのためのアクションプランを作るところまでを実施しています。つまりは、研修後の第一歩として何をやるのかをその場で決めています。当然ながら決めて終わりではなく、実際に行動してみてどうだったかを検証し、必要に応じて修正を加えていく。この繰り返しだと思います。
でも、常に意識して自分を律することは難しいですよね。そんなとき、アドバイスを受けたり相談できるキャリアアドバイザーの存在があれば、より効果的だと思います。

 

■研修で気づきを得たけど、行動には移せず、知らず知らずに『茹でガエル』になってしまっていることだけは避けたいですよね。 そうですね。でも、ここ数年で一気にキャリアに対する意識が高まっていると感じます。そういう点では、前述のライフシフトの残した功績は大きいし、安倍政権が進めてきた国家資格キャリアコンサルタントの倍増計画などは、大きな変化の現れだとも思います。それに今回のコロナ禍もそうです。自分のキャリアについて考える時間が圧倒的に増えたので、自ずと会社と自分の関係性を見つめなおすきっかけにはなっていると思います。転職予備軍が爆発的に増えている点もその現れですよね。今のままでよいのか、将来に対して不安を感じる、これまで見えていなかった会社の様々な部分が見えてきたという方が増えているのは事実です。
 
■お話を伺うと、キャリアアドバイザーの存在は、日に日に大きくなっていると感じます。
はい、まさにそう思います。ちなみにキャリアアドバイザーの姿勢として、私は次のように考えています。
・「転職相談」にのってくれるのは、普通のキャリアアドバイザー。
・「キャリア相談」にのってくれるのは、一流のキャリアアドバイザー。
そもそもキャリア相談って、仕事だけの話ではなく、プライベートも含めた生きる全般ですし、転職相談はその解決のための一つの手段でしかありません。人生設計としてのキャリア相談が重要だと考えています。
実際に、弊社が実施しているキャリアデザイン研修はここまでやっています。仕事の振り返りと、ライフの振り返り。全人生としての振り返りをしっかりと行うことが重要です。
 
■まさに、キャリア相談ドットコムの立ち上げの狙いはこの点で、転職ありきの相談ではなく、ライフ全体を含めた相談ができるサイト(サービス)にしたいと考えています。
転職させることが仕事の人材紹介エージェントと、本質的なキャリアコンサルタントとの違いはありますよね。欧米ではすでに、個人個人にキャリアコーチやキャリアアドバイザーが付いている社会です。日本との文化や商習慣の違いもありますが、わが国ももっと、キャリアに関する会話やサポートが増え、ビジネスが発展していくことを期待しています。
 
■キャリアデザインに、男女差などはあったりしますか?
特にないと思いますが強いてあげれば、危機感と行動力の点では、ライフイベントを考慮する女性のほうがキャリアに向き合ってきた人が多いもしれません。ある種、男性はキャリアを無限として考えていて、女性は有限として考えているという見方もあります。もちろん女性だけが家事や育児を行う時代ではありませんが、ある程度限られた時間の中でキャリアをどう形成するか。私がお会いしてきたビジネスパーソンを振り返ると、女性の方がキャリア形成に関して危機感や行動力が強い方が多かったように感じます。
 
■ビジネス・家族・地域など、様々な角度から捉えることが重要という事ですね。
まさにドナルド・E・スーパー氏が提唱した『ライフ・キャリア・レインボー』です。
キャリアとは、仕事に関わらず人生の様々な局面で訪れる役割を組み合わせて形成されるものであるという考えで、多様な役割が多層的に積み重なっていく様を虹に例えて、『ライフ・キャリア・レインボー』と名付けられています。1950年代に提唱されていますが、普遍的な定義であり、様々な場面で目にし耳にする方が多いのではないでしょうか。
普段一生懸命に仕事をしていると、キャリアについて考える時間や余裕がなくなってしまいがちなので、あらためて立ち止まって考えてみることが重要です。
その気づきを大切に、次なる一歩を踏み出すことこそが大事ですよね。

【プロフィール】

多胡敦史の顔写真
 

多胡 敦史

株式会社ポジティブ・キャリア
代表取締役

■テンプスタッフ株式会社 [6年] 人財派遣の法人営業。総合商社専任担当、人財紹介事業部立上げなど経験。若手育成プロジェクトの設立や、派遣スタッフの育成プログラムにも関わる。
※現パーソルテンプスタッフ株式会社
■フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社 [4年]
リーダーシップ・マネジメント研修の企画営業。様々な顧客の教育体系構築に携わり、組織のビジョン・ミッション策定、チームビルディングに注力。他にマーケティング、講師管理等。
■株式会社ローソン [10年]
新卒・中途社員の採用責任者として様々な実績を残す。全国20万人のアルバイト採用・定着の仕組み開発も担当。
全社の横断型 組織活性プロジェクトの統括リーダーとして、社内コミュニケ活性、表彰制度、全社イベントなど企画・運営。
■株式会社ポジティブ・キャリア
2018年12月設立、代表取締役に就任。
※GCDF-japan資格取得後、現在 国家資格 キャリアコンサルタントとして活動中
https://posica.jp/